
羽田に到着したら、その足でホテルに向かいチェックイン。
すぐに歌舞伎座のある銀座に向かいます。
そう、旅の第二目的「加賀友禅で歌舞伎座に行く」に臨むのです!
冷たい雨の降りしきる東京。
最悪のコンディションの中、きもの旅は続きます。
目次
冬の旅に欠かせない、寒さ対策
冬の東京は北陸より寒い!(多分)
雨は降っていなかったけど、東京は寒い!
体感では金沢より底冷えしているように感じました。
普段、ドアtoドアで車に乗って移動する生活に慣れていると、吹きさらしの駅のホームの電車待ちがすでに辛い。
旅行では基本外を移動しなくてはならないという当たり前のことを、すっかり忘れていたのは痛恨でした。
そして、東京の人は辛抱強い!
今回の旅行を通して、行く先々で寒風の中、じっと並んで順番を待つ行列に出会いました。
なのに誰も「寒い」とか文句言わないのです・・・私以外。
すごいなみんな。
きものは寒い? 温かい?
この日の私の防寒対策は、
・下着 →冬用の裏起毛和装シャツと、ネルの裏起毛裾よけ
・胸と腰回りに補正のタオル
・きものの上から袷の八分丈コート
・衿を抜いた首筋 →シルクの大判ショールを襟足から覆うように巻く
・裾から入る冷気と足先の冷え対策 →肌色のストッキングを足先で伸ばして、親指と人差し指の間に股を作り、その上から遠赤外線足袋、さらに足袋カバー。
きものの場合、特に首筋は大事です。
ここから入る外気さえシャットアウトできれば、体幹の体温は守れます。
新春の歌舞伎座は美しいきものの見本市
新しい歌舞伎座に来るのは初めてです。
今回は、「壽初春大歌舞伎」夜の部を観劇しました。
門松に迎えられてエントランスからロビーに入ると、正面に大きな鏡餅と華やかな正月飾り。
新春いちばんの公演らしく、華やかな和服姿の女性がそこここに見られます。
見るからに高級な訪問着姿もいれば、趣味のいい江戸小紋や紬などをセンスよく着こなす上級者さんもいます。
眼福です。
さすがにカメラを向ける勇気はなかったけど、心のシャッターは切りっぱなし。
素敵なきものをたくさん見たければ歌舞伎、お薦めです。
開演前のロビーをウロウロ
今回出ずっぱりの愛之助さんの奥様はいらっしゃるかしら。などとミーハー魂丸出しでキョロキョロしてみます。
・・・いらっしゃいませんでした。初日楽日ではないからね。
でも、お顔は存じ上げませんが淡い訪問着を身にまとった上品な女性が、控えめにホールの入り口に立って、ご贔屓筋らしいお客さんと談笑していました。
こなれてるなぁ。
あれが噂の梨園の妻か?
わざわざ夫を引っ張って来て報告する私。
ちょっとテンション高すぎです。
正月公演は豪華出演者勢揃い!
夜の部の出し物は
■「井伊大老」
■五世中村富十郎7回忌追善狂言
・上「越後獅子」
・下「傾城」
■「松浦の太鼓」
ちょっとだけ印象を書いておきます。
幕末歴史物「井伊大老」
もともとは新国劇として上演された演目を,歌舞伎に書き換え、戦後に初演された新しい歌舞伎。
舞台は幕末の開国前夜。主人公の井伊直弼を松本幸四郎が演じます。
側室で最愛の女性お静の方に玉三郎。幼なじみで今は敵対する水無部六臣に愛之助。
豪華な役者陣が顔を揃えますが、役者が大見得を切る外連味があるわけでもない。
ただ役者の厚み、たとえば幸四郎の人としての悲しみや、寄り添う玉三郎の凛とした強さが、セリフの中から伝わってきます。
歴史に名を残す権力者の苦悩と矜持を描いた、重厚で人間味あふれるお芝居でした。
「越後獅子」と「傾城」
昭和の名優、中村富十郎の七回忌追善狂言として、富十郎の息子鷹之資が、「越後獅子」を踊りました。
この踊りは、一人の踊り手が舞台の上で早変わりをしていくつもの役を踊り分ける「変化舞踊」というもの。
越後から江戸へやってきた軽業芸人「角兵衛獅子」が、故郷の名物や旅の心を歌い踊るという趣向です。
切れのいい身のこなしの中に、旅芸人の哀愁をにじませた、姿の美しい踊りでした。
「傾城」は、江戸吉原を舞台にした当世一の花魁・傾城が、四季の情景に秘めた恋を歌い踊るという演目。
実は、今回これがいちばん見たかった、玉三郎の艶やかで優雅な踊りです。
色ごとの達人であるはずの廓の太夫。それなのに、動きの端々に、燃える思いを押し殺した切なさを感じます。
玉三郎さんの踊りに引き込まれる、至福のひとときでした。
残念ながら、生前の五世富十郎の舞台は見ていません。
でもこの二つの演目を当たり役とした名優の、芸域の広さは想像することができます。
休憩時間にあらためてロビーに出て、ご遺影に手を合わせてきました。
松浦の太鼓
わりと最近、NHKの「にっぽんの芸能」で見た演目です。
やっぱり劇場で見ると印象はまるで変ってきますね。
「松浦の太鼓」は、忠臣蔵の外伝的な物語です。
義士のひとり・大高源吾と、彼の俳諧の師匠・宝井其角の交流、そして吉良邸隣に江戸屋敷を構える大名・松浦鎮信の心情が描かれています。
忠臣蔵ですから、物語は基本、悲劇調で進みます。
しかし、文武に通じた松浦公の、若干野次馬的な赤穂浪士への肩入れが、ちょうど良い感じの軽妙さに仕上がっていました。
歌舞伎役者としての染五郎、いいですね。育ちの良さが伝わってきます。
臨場感あふれる大向こう
劇場で観劇していると、芝居の要所要所で、客席のどこかから声がかかります。
「高麗屋! !」
「待ってました!」
のような掛け声で、役者が見得を切ったときや、登場、退場、決め台詞を発したときなどに、絶妙なタイミングで聞こえてきます。
この掛け声を「大向こう」といいます。
芝居が最高潮に達する時を逃さず、あうんの呼吸で客席から声がかかることで、舞台上と客席の空気が一つになり、劇場全体にグルーブが生まれるのを肌で感じました。
「劇場で歌舞伎を見ているんだ」
と実感します。
美術織物の粋を集めた舞台緞帳も見どころ
幕間に、歌舞伎座の舞台を彩る緞帳の紹介がありました。
今回初めて、歌舞伎座に四種類の舞台緞帳があることを知りました。
次々と鮮やかに織り出された緞帳が降りてきて、場内案内の解説とともに披露されていました。
これらの緞帳を製作したのは、株式会社川島織物セルコンと、株式会社龍村美術織物。
和服好きにとっては、言わずと知れた帯のトップメーカーです。織の伝統と最先端技術は、こういうところにも息づいているのですね。
この緞帳は、タイトル『夕顔図』。
提供元のLIXILグループ会長 潮田洋一郎氏が所蔵している安土桃山時代の夕顔と瓢箪図屏風の原画を元に製作されたものだそうです。
製織したのが、株式会社川島織物セルコン。
こちらは 中島千波画による『春秋の譜』。龍村美術織物による製織です。
もっと気楽に、劇場に
歌舞伎そのものを観る楽しみはもちろんですが、歌舞伎座には、「場の楽しみ」がたくさん用意されていたように思いました。
上で書いたもののほかにも、たとえば、幕間に華やいだ劇場内を散策する楽しみ。
たとえば、今回は時間の都合でできませんでしたが、幕間にいただく劇場特製のお食事。
建物や内装の、季節ごとのしつらえ。
演目を楽しむだけではなく、歌舞伎文化全体を楽しむためにも、やっぱり劇場に足を運ぶことが大切。
「歌舞伎は敷居が高い」と身構えてしまいがちですが、もともとは江戸庶民の最高の娯楽です。
武家も町人も、思い思いのに着飾って、ワクワクしながら劇場を訪れたように、私たちだって気張らずに、ただちょっとした特別感を味わいながら、歌舞伎座に足を運べばいいと思います。
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